FP実技試験ノート⑥法人版事業承継税制の特例について
皆さんこんにちは!中小企業診断士のししまるです。本日は事業承継税制の特例についてです。時価総額が大きい中小企業オーナーにとっては相続対策の切り札となる事業承継税制の特例を分かり易く解説します。
目次
サマリー
・中小企業の事業承継において、経営する会社の株式総額が高く、多額の相続税発生が見込まれる場合、事業承継税制の特例の適用は極めて有効。
・2023年3月31日までに特例承継計画の提出が必要であり、利用検討は速やかに開始すべき。
・事務コスト負担、取消リスク等デメリットもあることから、通常の対策(暦年贈与、相続時精算課税制度)により対応可能な場合は、通常対策を優先検討すべき。
法人版事業承継税制の特例の概要
事業承継税制とは中小企業の事業承継を円滑に行うため、一定の条件を満たした場合に事業承継の際の相続税・贈与税を猶予・免除する制度です。2008年に施行されましたが、使い勝手が悪く、永らくあまり利用されませんでした。
従来使い勝手が悪かった事業承継税制の要件を期間限定で緩和し、大幅に使い勝手をよくしたのが2018年に施行された「事業承継税制の特例措置」です。
事業承継税制の主な要件
(共通事項)
要件の対象 | 主な要件 |
会社 | 次の会社のいずれにも該当しないこと ⑴ 上場会社 ⑵ 中小企業者に該当しない会社 ⑶ 風俗営業会社 ⑷ 資産管理会社(一定の要件を満たすものを除きます。) |
後継者 | ⑴ 【贈与時】役員の就任から3年以上を経過、20歳以上で会社の代表権を有していること ⑵ 【相続時】相続開始の日の翌日から5か月を経過する日において会社の代表権を有していること ⑶ 一族で総議決権数の50%超の議決権数を保有すること ⑷ 後継者の有する議決権数が、次のイ又はロに該当すること (特例措置) イ 後継者が1人の場合 一族の中で最も多くの議決権数を保有すること ロ 後継者が2人又は3人の場合 総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、一族の中で(他の後継者を除きます。)最も多くの議決権数を保有すること |
先代経営者 | ⑴ 会社の代表権を有していたこと ⑵ 贈与の直前において、一族で50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと ⑶ 贈与時において、会社の代表権を有していないこと |
担保提供義務 | 納税が猶予される贈与税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。(当該株式の全部提供で可) |
改正前(一般措置) | 改正後(特例措置) | |
適用期限 | なし | 2018年4月1日~2027年3月31日 |
対象株式 | 全株式の最大3分の2まで | 全株式 |
猶予割合 | 相続時80%、贈与100% | 100% |
承継パターン | 複数の株主から1人の後継者 | 複数の株主から最大3人の後継者 |
雇用確保要件 | 承継後5年間平均8割の雇用維持が必要 | 弾力化 |
事業継続が困難になった場合の免除 | なし。猶予税額を納付 | 譲渡対価の額等に基づき再研鑽した猶予税額を納め、従前の猶予税額との差額を免除 |
相続時精算課税制度の適用 | 60歳以上の者から 20歳以上の推定相続人・孫への贈与 | 60歳以上の者から 20歳以上の者への贈与 |
事前の計画策定等 | なし | 2023年3月31日までに特例承認計画を提出 |
事業承継税制(特例)のメリット
- 制度適用を完遂すると相続税や贈与税が免除される。
- 特例は期間限定であるため、制度利用のため、後継者が先代経営者に事業承継計画の作成を促しやすい。
- 取消条件の要件緩和、業況悪化による売却解散時に、売却等の時の株価を元に納税額を再計算し、差額が免除されることで、取消事由に該当した際の納税発生リスクが相当程度低下している。
事業承継税制(特例)のデメリット
- 「特例承認計画」の策定、報告・届け出(贈与後5年毎年、以後3年毎)が必要。
- 取消事由に該当すると、猶予されていた税額に加えて、利息も支払う必要が出てくる。
- 後継者の代表者交代、株式の変動は取消事由となることから機動的な企業再編が困難になる。