FP実技試験ノート⑤暦年課税制度と相続時精算課税制度の選択
こんにちは中小企業診断士のししまるです。本日は中小企業者が後継者に株式を移転する際の方法として暦年課税制度と相続時精算課税制度の選択についてのお話です。
目次
暦年課税制度と相続時精算課税制度の概要
贈与税の計算方法には、暦年課税による方法と相続時精算課税による方法があります。
暦年課税制度では贈与額に対し、110万の基礎控除を控除した後の課税価格に超過累進課税率を適用して贈与税を計算します。
同一年に多額の贈与をする場合は贈与税の負担が重くなりますが、毎年110万までであれば基礎控除により贈与税はかかりません。相続までに時間がある場合、長期間にわたり110万以下で贈与を行うことで、トータルでは大きな節税効果が期待できます。
相続時精算課税制度とは贈与時には「贈与額ー2500万」×20%の贈与税を暫定的に支払い、相続時に相続時精算課税制度を利用した贈与財産も相続財産として相続税を計算し、清算する制度です。同制度の利用自体では節税効果はありませんが、贈与時点における株価で固定できることが大きなメリットで、計画的な相続対策が可能となります。生前に多額の財産を後継者に贈与する場合には有効です。
暦年課税制度と相続時精算課税制度の比較
暦年課税制度 | 相続時精算課税制度 | |
適用対象者 | 制限なし | 60歳以上の父母または祖父母から20歳以上の子または孫に対する贈与 |
適用手続 | なし | 贈与税の申告書に届出書を添付。いったん選択すると以後変更できず、暦年課税に戻すことはできない。 |
相続時の財産組戻し | 相続発生前3年以内に贈与を受けた財産 | すべての贈与財産 |
相続時の贈与財産の価格 | 贈与時の時価 | 贈与時の時価 |
相続税控除 | 控除はあるが、控除しきれない額に対する還付はない。 | 贈与時の課税分は相続税より控除され、控除しきれない部分は還付を受けることができる |
メリット | 毎年110万の基礎控除あり | 同一年に多額の贈与を行う場合、一時的な税負担は軽く、相続時にも贈与時の時価が適用できる。 |
中小企業の事業承継上、暦年課税制度と相続時精算課税制度のどちらを選択すべきか?
まずは後継者への株式移転をいつ行うかが重要です。事業承継の見地からは、安定した経営権の確保のためには株式の過半、出来れば3分の2を所有することが重要です。
代表権の移譲のタイミングで株式の移転も行うことが、スムーズな事業承継につながります。
代表権は移譲しても、株式は相続時まで保持したいと思っている経営者は多いですが、スムーズな事業承継の見地からは、代表権の移譲とともに、株式の移転も検討した方が、相続税負担回避のための対策を行うことができるケースが多いと思います。
相続を行う会社の株式時価総額が小さいケースにおいては、遺言書の作成により後継者宛てに株式の移転を定めておけば事足りますが、相続時の株式時価総額が大きい場合、相続税対策をおこなわないまま相続が発生すると後継者に大きな負担となる危険性があります。
上記観点からは、相続時精算課税制度の利用が検討対象となります。相続時精算課税制度のメリットは一度に多額の株式の移転を行っても、贈与時には比較的税負担が軽く、かつ相続時の株価が贈与時にも引き継がれることにあります。
代表権の移譲を行う際に役員退職金を支給することにより、株価を一時的に引き下げ、引き下げた価格で譲渡することにより、節税も可能となります。
一方、後継者とともに事業をおこなっており、経営権を引き継ぐのは先と考えているが、早めに株式の移転は行いたいと考えている経営者であれば、110万以内で毎年株式を移転していくことが税負担上は有効です。
また、未上場優良企業で引き継ぐ株式の時価が相続対策をしてもなお高額となるケースにおいては、事業承継税制(納税猶予制度)の活用の検討が有効となります。
事業承継に当たり、どの制度を活用するかは、株式の時価総額と経営者の考え方次第ですが、早いうちから自社の株価を把握し、どのようは対策を行うべきか検討することがスムーズな事業承継には必要です。