FP1級実技対策ノート⑮信託の活用

 こんにちは中小企業診断士のししまるです。本日はFP1級実技対策ノート第15回。事業承継・相続における信託の活用についてのお話です。

信託とは

 信託とは、「財産を、別人(自身の場合もあります。)に、管理・運用してもらい、その成果を受け取る人を定める制度」のことです。財産の管理・運用の目的を自分が決めて、信頼できる人に託すことが、信託の大きな特徴です。
財産を信託された人(受託者)は、信託した人(委託者)の決めた目的に沿って信託された財産を管理・運用します。
 「信託」は委託者(自分)、受託者(管理者)、受益者(財産から生じた成果の給付を受ける人)の3者の関係からなる制度です。信託には自益信託と他益信託があり、委託者と受益者が同一のものを「受益信託」委託者と受益者が異なるものを「他益信託」といいます。
 法律上、財産の所有者は受託者ですが、税務上は受益者が財産の所有者となります。例えば、他益信託となる信託契約を設定すると、税法においては委託者から受益者に財産の贈与があったものとして、贈与税が課税されます。また、「遺言」により信託の効力が発生した場合には、委託者から受託者に財産の遺贈があったものとして、相続税が課税されます。
 信託契約締結において、信託契約の内容等については委託者の意向により決定が可能ですが、契約後の委託者の権利は限定的なものとなります。

事業承継に活用できる信託の種類

 信託にはいろいろな役割・活用法がありますが、事業承継・相続にかかる信託の主な活用方法は下記の通りです。
①生前贈与の代用としての信託の活用
②遺言代用信託
③後継ぎ遺贈型の受益者連続信託

生前贈与の代用としての信託の活用

 生前贈与の代用としての信託の活用方法には主に2つのパターンがあります。
①受託者を自分とし、受益者を子とするケース。
②受託者を子とし、受益者を自分とするケース。

①受託者を自分とし、受益者を子とするケース。
 財産の子への贈与を早めにおこないたが、子が若すぎる等の理由で財産管理能力に不安がある為、財産の管理は自分で行いたい場合に活用できます。
 税務上は信託の設定時に財産の贈与があったものとして取り扱われるため、生前贈与を行ったのと同様の効果が得られます。親が死亡した場合、信託は終了する取り決めをしておけば、相続の発生と同時に信託財産の所有権は名実ともに子のものとなります。また、信託の設定時に相続時精算課税制度の活用も可能です。
 また、中小企業オーナーなどで後継者の早期確定、株価の上昇を回避するために後継者への早期の財産の移転を行いたい一方、株式の議決権は自分で保持しておきたい場合にも、信託の活用が可能です。

②受託者を子とし、受益者を自分とするケース。
 財産の子への贈与はまだ行いたくないが、老化等の理由で自分の財産管理能力に不安があるため、財産の管理は子に任せたい場合に活用できます。このような場合には、信託の設定時においては実質的には財産の移動はないため、贈与税等の課税関係は生じませんが、自分が死亡した時に相続税が課税されることになります。

遺言代用信託の活用

 遺言代用信託とは、生存中は自分を受益者とし、死後は、他の者を受益者と定めることによって、自分が死んだときの財産の分配を信託によって実現するものです。 
 特定の子に相続させたい財産について、生前の内に自らを受益者とする自益信託を設定し、死亡時に特定の子がその受益権を取得する取り決めをしておくことで、遺言の代用となります。
 中小企業オーナーなどが自身が保有する自社株を後継者の方に相続させる場合等にも活用が可能です。

後継ぎ遺贈型の受益者連続信託

 後継ぎ遺贈型の受益者連続信託は、財産の承継者を複数世代にわたって指定できる信託です。例えば、ある財産を、自分が死後、配偶者に承継し、配偶者が亡くなったら子に承継するということを生前に決めることができます。
 中小企業のオーナーなどが、自社の株式を信託した上で、後継者となる方を順に受益者として指定しておくことで、経営の空白期間が生じることなく円滑に事業を承継することが可能となります。例えば、「自分が死んだら子どもに自社株を承継する。その子どもが死んだら、その配偶者に自社株を承継する」といったことを決めておくことができます。

事業承継における信託活用のメリットとデメリット

事業承継・相続における信託活用のメリットとデメリットは下記の通りです。

メリット
・被相続人の意向に沿った柔軟な条件設定が可能。
・中小企業オーナーの場合、後継者の地位の早期確立、死亡時の後継者への株式移転がスムーズに行える。
・他益信託を活用し、早期に財産権を移動を行う場合は計画的な相続税対策が可能となる。

デメリット
・信託銀行等に対する信託報酬(商事信託時)、専門家に対する報酬(民事信託時)が発生する。
遺留分に対する法的見解が定まっていないことから、相続トラブルが発生する可能性がある。
事業承継税制が活用できない。

まとめ

・「財産権は早期に贈与したいが、株式の議決権は保持しておきたい。」「次の次の後継者まで定めておきたい。」といった中小企業オーナーのニーズ解決策としては信託の活用は有効。
・老化等に伴い、自身の財産管理能力に不安のある方は自身を受益者に子を受託とする信託の設定は有効。
・中小企業オーナーで相続税が多額に発生することが想定される場合に信託を活用すると、事業承継税制が活用できなくなるので、十分な検討が必要。

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